Tomatis® メソッドの基礎はどのようなものですか?
前述のトマティス®効果は「耳と声のつながり」について解説してくれます。これは「聞くこと」と「話すこと」つまりコミュニケーションにおける耳の役割を説明します。
では、トマティスメソッドの基礎とはどのようなものでしょう?
耳は音を受け取る器官だと理科の授業で学ぶため、聴覚は受動的であると考えられることが多いのですが、トマティス博士は、聴覚には受動的な部分「聴くこと」と、能動的な部分「話すこと」の両方があると常に語っています。話す時、人は自分の声を最初に聴き、話している意味を理解し、ボリュームも常に微妙にコントロールしています。これは聴覚の助けがないとできません。
一方で博士は、「人は音を聞けていても、その音の意味をうまく受けとれない場合もある」ことに気がついていました。
このことは、中耳や内耳の問題、メンタルやトラウマの問題が原因で起きている可能性がありますが、トマティスメソッドのトレーニング用に加工された音楽で一定期間トレーニングすることで改善できます。トレーニング用の音楽は耳と脳の間のコミュニケーションを刺激し、音に対する認知を高めます。その結果、リスニングスキル、コミュニケーション、注意力、さらにそれ以上のさまざまなスキルが向上します。
トマティス博士はこれら「耳と声のつながり」「耳と脳のつながり」「聴覚を通じた聴くことと話すことのトレーニングの効果」と言った事柄を大変よく理解したために、「電子耳(聴覚トレーニング機器)」を発明することができました。この聴覚トレーニング機器により、例えば歌手の長年使いすぎたことによって障害された耳と声質を再教育し回復させることが容易になり、ストレスで聞こえが低下した人たちの聴覚と声を再教育して日常生活を取り戻させました。博士はこの作品を1958 年のブリュッセル万国博覧会で発表し、イノベーション賞を受賞しています。
ゲーティング®とは何ですか?
Tomatis® メソッドは、革新的な神経感覚刺激トレーニングを使用して、脳の機能を再トレーニングします。ゲーティング® は Tomatis® メソッドの中核です。私たちの脳の注意メカニズムは、ヘッドホンを通じて聞こえる音や音楽の周波数間で音のコントラストが作りだされるときに活性化されます。この音のコントラストを自然に、しかし脳が飽きないくらいの頻度で作り出すものがGating® です。ゲーティング®️は、脳を聴覚システムから受け取る情報の変化にきちんと対処するようにトレーニングし、脳を通常のパターンから目覚めさせ、積極的に聴くようにします。
ゲーティング®はどのように機能しますか?
Tomatis® メソッドでは、音を C1 と C2 という 2 つのチャンネルに分割する特殊なフィルターを備えた「電子耳(聴覚トレーニング機器)」を使用します。
C1 チャンネルは、聴覚系を一時的にリラックスさせる、穏やかで心地よい音色の低周波を発します。C2 チャンネルは、より明るくシャープな音色の高周波を発して、音を正確に処理するために必要な脳の注意メカニズムを刺激します。
「ゲーティング®」は、このC1 チャンネルと C2 チャンネルを、脳が読み取れないようなタイミングで交互に切り替える機能です。音の強さと音色の変化によりコントラストが生まれ、耳と脳のつながりが鍛えられます。
電子耳(聴覚トレーニング機器)とは何ですか?
耳を訓練するためにトマティス博士が開発した機器のことです。これに、気導スピーカーと骨導スピーカーが一体化した専用ヘッドホンを使用してトレーニングが可能になります。
耳と脳のつながりや注意を引くための音のコントラストは、空気伝導のスピーカー(普通の耳につけるスピーカー)と骨伝導のスピーカー(トマティスのヘッドホンでは頭頂部に装着)の両方から人に伝わります。空気伝導は、外耳道内の空気の振動を通じて揺れる鼓膜の情報として耳が受け取ります。骨伝導は、耳を構造する骨が音の振動を拾うときに情報として伝わります。聴覚トレーニング機器は、このヘッドホン(気導と骨導のスピーカー)から人に伝わる音をその人の耳の状態にマッチするように加工し、周波数のフィルターをかけ、気導と骨導のバランスも微調整し、後述のディレイとプリセッションを変え、最適化した状態で耳のトレーニングを行います。
また、トマティス博士は聴覚ラテラリティ(聴覚の利き側)として「右耳優位」を推奨しました。右耳は脳の左側とつながります。人間の言語野があるのは左脳ですので、理解、論理的推論、言語の特に話すことを司ります(左耳は右脳と繋がり、感情の認識と音楽性の役割を担います)。トマティス博士は、右耳を利き側として音の変化を完治し識別できるようになることで、個人の幸福感が向上する可能性があると気がつき、この右耳優位の推奨に至りました。これも聴覚トレーニング機器によってコントロールできる項目の一つです。
聴覚情報の処理に軽度であっても問題があることは、人として成長し社会的な生活を営む上では大きな問題となり、行動、言語、学習、発話の障害を引き起こす可能性も出るため、気がついたらできるだけ早くトレーニングを行うことが望まれます。
骨伝導はどのように機能するのでしょうか?
固体と気体は、どちらが早く振動(音)を伝えるでしょう? これは個体の方が早いと物理学で証明されています。トマティスメソッドでは骨伝導の音の方が空気伝導の音より早く聴覚神経に届く、という理論を使用して、トレーニングをデザインしています。
音楽はまず骨で感知され、脳に伝えられます。即座に脳は、気導から伝わる音を予測して準備をします。このメカニズムによって、脳は音や音楽に注意を向けています。
この自然に起きているはずの「音を聞き取ろうとする仕組みの働き」が生まれた時からうまく働いていない場合もありますし、ストレスやパワハラで今までできていたその働きがうまく動かなくなることもあります。トマティスメソッドはトレーニングの中でその働きを学習(または再学習)させていきます。
聴覚トレーニング機器は、骨伝導の働きを最大限に高めるため、音がヘッドホンから人に届くまでの時間を、骨伝導と空気伝導別々に調整できます。これは、ディレイ(遅延)とプリセッション(歳差)と呼ばれます。
ディレイは、骨伝導が C1 (耳休めの状態)から C2 (耳気をつけの状態) に移動するのに必要な時間を指します。プリセッション は、骨伝導信号が C2 に切り替わった後、空気伝導が C1 から C2 に移動するのに必要な時間を指します。
自然な環境では、音は空気伝導よりも骨伝導の方が速く伝わるため、音の遅延が生じ、音理解のための準備時間ができます。Tomatis® メソッドは、このディレイ⇔プリセッションの運動メカニズムによって「骨導から音が体に届き、気導の音が届くまで」のディレイ時間を長くし、聴くことの訓練がまだされていない耳と、聞けていたのに聴くことができなくなってしまった耳に、音を聞く準備ができるまでの時間(骨導音が入ってから気導音が入るまでの時間差)を長くすることで、音の意味理解の手助けをします。耳がより速く聞くことを学習するにつれて、遅延時間を短く、普通に聴いている状態に戻すように調整していきます。
音と聴覚は子宮の中で始まるというのはどういう意味でしょうか?
胎教というと、「お母さんは良い音楽を聴きましょう」とか「お腹の赤ちゃんに優しく話しかけてあげましょう」という感じで語られることが多いかと思いますが、トマティス博士は、胎教=胎児の出生前ケア分野の先駆者でもありました。
彼は、赤ちゃんは生まれる前から骨伝導を通じて聞き始めていることを書籍にまとめています。彼によれば赤ちゃんは、妊娠 18 週頃から母親の子宮の中で母親の声を聞き取ることができます(現在の研究では胎児の聴覚神経が完成するのは妊娠20週から25週と言うのが定説です)。そして妊娠後期の胎児は母の話す声から言語の学習を始めていること、単語の意味ではなく、言語のリズム、スピード、イントネーション、母の声の特徴などを手に入れて生まれてくることを、主張しています。このことはその後の研究で明らかにされています。(生後0日の赤ちゃんも母と母以外の女性の声に反応の違いがあること、母語と母語以外に反応の違いがあること)。
胎児の時期に何らかの理由で耳の訓練ができないまま生まれてきた子どもたちは、母親の声に対する愛着も確立しにくく、母語のキャッチの悪さから言語に遅れが出る可能性がある、と博士は主張し、そうした子どもたちに言語を中心とする聴覚トレーニングを実施しました。
母の声をトレーニングで使用することもあります。博士は「胎内で母の声を聞き、世界が母と一体で大変幸せな場所だった時期を再現したい」と言う思い(博士本人は当時としては生き延びることが難しいほどの早産で生まれたため、胎内で38週間まで過ごす喜びを手に入れられなかった、と自伝でも書いています)から、母の声を録音し、フィルターをかけてトレーニング素材とする方法を考えつきました。この14日間の胎内回帰(とかつて呼ばれていました)のトレーニングでは、音楽は徐々に低周波の方からフィルターで除去されていき、高周波音だけが聞こえるようになったところで母の声を使用します。
現在、「胎内では低周波音が多く含まれる音が胎児に届いている」ことは事実として知られています。しかし、このトレーニングは妊娠期間からトレーニングを受ける時までの母子関係が良かった場合に使用することがあります。理由としては、聞き取れない子どもたちや言語が出にくい子どもたちは、聴覚から入ってくる音の分析力が弱いので、周波数を制限して分析すべき種類を減らし、丁寧に少しずつ音を聞きながら理解し記憶に留めることに有効だと考えられているからです。実際、このトレーニングを経て、言語への理解が進んだ子どもたちがたくさんおり、自分の声で子供が言語を手に入れたことで救われた母親たちがたくさんいます。
Tomatis® メソッドは何を改善しますか?
Tomatis® メソッドは、あらゆる年齢層の次のような困り事を抱える人々に改善効果をもたらす可能性があります。
神経発達症群
知的障害
自閉スペクトラム症(ASD)
多動性(ADHD)、それに関連する行動上の問題
学習障害(LD)
グレーゾーンの認知機能と発達機能の問題
言語の困難
コミュニケーションの困難
言語発達の遅れ
聴覚処理障害(APD/LiD)
感覚機能の困難
感覚統合の問題
聴覚過敏
聞く力の弱さ
感情機能の困難(重い症状の場合は精神科のお医者様と相談しながらの実施になります)
不安、ストレス、トラウマなどメンタルの問題
感情障害
うつ病
軽度または寛解した統合失調症