現在、世界中で発達の問題の診断基準になっているものは二つあります。
一つはWHO(世界保健機構)が出しているICD-11。
もう一つがAPA(アメリカ精神医学会)のDSM-5-TR。

私が普段使っているのはDSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)の方です。
DSM-5が出版されたのが2013年。改訂版DSM-5-TRは2022年3月に出版されました(日本語未訳)。

現在ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)と呼ばれている症状に対して、今まで色々な呼び方があったことをご存知の方もいるでしょう。
ASDは、自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害、と色々あったものがDSM-5で「自閉スペクトラム症」にまとまりました。
ADHDは、注意欠陥障害(ADD )がADHD(注意欠陥多動性障害)になり、DSM-5で「注意欠如・多動症」になりました。
この二つとLD(限局性学習症)などが「神経発達症」という大きな括りの中に入って9年経つわけです。

診断基準が変わるたびに、その捉える範囲も変わり、その結果名前も変化していった(特に「障害」という言葉を使わなくしようというトレンドがありました)というのが経緯ですが、保護者の皆さんにはそんな説明がないので、とても分かりにくかったと思います。書籍とかネット上の記事には古い呼び名も混ざって来ますので。

さて、DSM -5-TRの関連変更点を。

・「知的障害(知的発達症)」の名称は、ICD-11との整合性をとるために「知的発達症(知的能力障害)」と変更。
・自閉スペクトラムの診断基準Aが少し詳しくなり、1,相互の対人的ー情緒的関係の欠如、2.対人的相互反応で非言語的コミュニケーション行動を用いることの欠如、3.人間関係を発展させ、維持し、それを理解することの欠如、この三つを満たすこと。
と変わったそうです。(「DSM-5-TRにおける神経発達症の記述  変わるもの、変わらないもの」野村健介 公益社団法人 日本発達障害連盟発行「発達障害医学の進歩」2024 No.35 p1-8)。
他にもADHD的症状を悪化させる生活習慣、特に睡眠不足や睡眠時無呼吸症候群とADHDの関連についての記述など、やっとこの辺りが話題になってきたと私は嬉しく読みました。眠たい子、鼻が詰まってる子に集中しなさいと怒るより原因を減らしてあげるほうがずっと近道です、ほんと。

記述を読み、センターに来ている子たちのことを思い出し、色々なことを考えます。
そして、何を足したり引いたりしていくことがその子のためになるのだろうかと、また考えます。