作文を書くことが苦手な子の研究

家庭教師の仕事はちょうど10年前から再開しました。
学生時代から30代後半まで続け、子育てが始まって、もう終わりにするかなと思っていましたが、息子の同級生ママから高校入試前に頼られたのがきっかけで再開。
ギフティッドで表現欲の強い幼稚園の子から、書くことが苦手でたまらない大学受験生まで、幅広く教えています。

さて、今年度は「本当に文章を書くことが苦手です」と言う、強めの「作文嫌い」の子達を教えていました。共通点もあれば違いももちろんありますが、どこで引っ掛かっていたのか、どう解消させていったのか、今までの子達も思い出しながら少し書いていきます。

①作文そのものへの苦手感が強い
書く気にならない。うまく書けない。書きたくない。そんな気持ちを持つ子は、まずそこの解きほぐしから始めます。頭の中に言葉はあるか? 言葉がうまく出ないだけか? そもそも考えるのが苦手か? この辺りも大事なポイントです。
頭の中に言葉がない時は、連想力・想像力の低さです。WISCで言えば言語理解が低めという形で出ています。ですのでこの場合は時間をかけて、一つの言葉からどんな連想ができるのか、そんなワークから始めていきます。
言葉がうまく出ない時は、ふわふわっとした連想や想像は頭の中にありますので、これに輪郭をつけてあげたり、たとえばどんな? へえ、面白いこと考えてるね、など質問や褒めで少し固めていってあげます。
そもそも考えるのが苦手な場合。これは頭の中に言葉がないことと似ていますが、今まで「考えるのが楽しいと思ったことがない」とか「みんなのペースに合わせて考えてると自分の答えが出る前に終わっちゃって最後まで考えられなくて諦めた」とか、トラウマっぽいことを持っている可能性も合わせて考えます。なのでこんな時は、身近な話題から考えて自分の意見を言い合う、それを拾って磨いて見せてあげる、そんなことが有効です。

②テーマに沿って考え続けることが苦手
これはADHD傾向が高いと多く見られることです。集中の持続時間が短い、提示されたテーマからどんどん外れて連想が広がってしまう、またはそのテーマは好きじゃないから考えられないと言い出す、色々なお子さんを指導してきました。
集中の持続時間が短い場合は、ボクシングのレフェリーになったつもりで介入し、集中が切れたら一休み、というパターンを手に入れさせます。「考えつかないのは疲れた証拠、水飲んでおいで」「下手な考え休むに似たり、と言う諺もあるよ」など伝えて、リフレッシュさせたり、自分の状態に気がつくように指導です。喋らずに考えさせると3分で寝ちゃう子も来ていました。バランスボールチェアに座らせて感覚刺激を増やしたりすること、室温を涼しめにすること、柑橘系のアロマを使うことなども少し効果があります。
連想が逸れて行くタイプの場合は、運転の助手席に座った運転練習教官のつもりでナビをします。「はい、よそ見しない」「はい、テーマに戻ってきて」「はい、その話は面白いけど今書くものとは違うからね」とかそんな感じです。この場合も集中の持続時間はかなり短いので、休ませながら書かせます。自分の書いたものを読み返すことはあまりしてきていない子が多いので、声に出して読ませながら「ここ、ちょっとずれちゃったね」など感想戦をやると入って行くこともあります。
そのテーマは好きじゃない、好きじゃないものについては考えられない。この意見にはASD特有のこだわりが感じられます。なので好きではないので書きたくないと言う気持ちをまずは受け止め、それからそもそもなぜこのテーマで書かねばならないのか、を一緒に徹底的に突き詰めます。書かないとどんな不利なことがあるのか。書かないと決めるとどんな影響があるのか。他のテーマにはならないのか。諦めて書く気になれるのかなれないのか。適当にやり過ごすことができない人たちは、いい加減なものを提出できないので、納得できるかできないかを突き詰めていきます。そこまで考え抜くと「書かねばならぬ」と言うことが腑に落ちて書こうかなと言う気持ちになる子がいます。

③手書きそのものが苦手、誤字脱字が多い
これはWISCで処理速度が低いと言う形で出ます。この場合はコンピューターで下書きをして清書だけ手で書きましょう、と勧めています。
子供達の生活には学校でパッドが配られる時代になり、いよいよ手書きの意味が問われる時代に入りました。身体論からも、感覚統合の立場からも、できる子には手書きで書いてもらう方が記憶への定着も高いのではありますが、そもそもの内的能力が落ち込んでいる子に無理強いすることはお互いの無駄だと私は考えます。
パッドだとかな入力も簡単にできます。音声入力でもいいんです。自分の考えが言葉になるだけではなく、文字になって残せる、何度も読める、伝えられる、この体験の方が大事だと思います。
考えるスピード、口で話すスピードに比べて手書きのスピードは本当に遅いので、漢字を書いている間に何を書くかわからなくなったり、先を急ぐあまりに文字が抜けたりします。
誤字脱字の多さには、やはり一緒に声に出して読み返し、間違い探しをして行くことが効果になることもあります。

④パターンだけを教えられてその通りに書こうとする
読書嫌いの中学生男子に目立つのですが、接続詞の多用で文がねじれちゃう子たち。本文部分よりも接続詞の方が多いのではと(実際にそんなはずはないのですが)感じるほどの接続詞の嵐。そして何が書かれていたのかよくわからない、そんな作文になっちゃう子達もいます。多くの子たちは「なぜなら・・・」「・・・だからです」「以上のことから・・・」を多用するので、どうやら理科のレポートで強くパターンを叩き込まれた跡のようです。そして「難しそうな言葉を使うといいらしい」と言う間違った思い込みも持っています。
テーマ作文によってはこれらの言葉はフィットしないのだ、と伝えて、それ以外のパターンを作って読み比べさせるのですが、あまりピンとこないことも多いので、この子達は時間をかけて「簡単な言葉で大切なことを伝えられる文章」みたいなものに触れさせる必要があります。

作文苦手と言っても、そこには色々な理由があるとお伝えしたくて書いてみました。