「聴覚トレーニング、変わったお仕事、良く見つけましたね」「こんなお仕事とどうやって出会ったんですか?」と、訊かれることがたまにあります。そうですよね、何でこんなことを? って思いますよね。
私がトマティスメソッドに出会ったのは30代半ばの時です。それまで仲間とやっていた仕事が完全に上手く行かなくなり「解散、各々自分の道を行こう」と決まって、全員が全員呆然としていた時。私の夫もチームとして一緒にやっていたので、同時に何もかも無くなりました。
何も無くなった時、私にはそれまで忙しくて伸ばし伸ばしにしていたやりたいことが一つありました。妊娠・出産・育児です。私は自分の興味からも子どもを生んで育ててみたいと、若い時から強く思っていました。女性の身体をしているのですから、自分の身体をそんな風にも使ってみたい。夫には結婚前からそう告げてあって、年も年だしチャンスでは、と思って夫に話しました。すると「ごめん、やっぱり父親になる自信無い」と、ドラマの展開みたいな返事。彼の両親は彼が3歳の時に離婚しているので心配ではありましたが、このタイミング、年齢的にギリギリの時期に拒否ですか、と二つ目のショック。そんな感じでどうして良いのか解らずしばらく途方に暮れていた私でした。
しばらく途方に暮れていたら少し元気が出て、「それはもう仕方ない。ではリセットしよう。新しい場所で新しいことを始めよう。そのためにまず元気を出そう」と決めたとき、思い出したのがトマティスメソッドでした。音楽友達たちの間で話題になっていたのです。「音楽のクオリティが上がる」「音色が変わる」「語学も聴き取れて喋れるようになる」「リラクゼーションにも効く」そんなステキなメソッドが日本に上陸して来たのだと。
さっそく調べて体験に行き、そのままトレーニングを受けました。当時はセンターに週3回2時間ずつ通ってトレーニングするしかなく大変でしたが、仕事も何もかも無くなっているので時間はあります。センターでヘッドホンを借り、小さいブースに入って音楽を聴きながら絵を描きます。前半のトレーニングは寝てても良いと言われていたので、眠い日はブースの壁に寄りかかったりテーブルに突っ伏したりして寝ていました。
そんな不思議な時間をしばらく続けていると、なんだか気持ちがスッキリしていることに急に気がつきました。ぐるぐる止まらなかった考え事も、あれこれ思い煩っていたことも、恨みがましい気持ちも、なんだか遠くに行ってしまった感じ。毎日クラシック音楽を聴いているだけでこんなに気持ちに変化が? とビックリしましたが、変わったことは明らかでした。
続く