ノーマン・ドイジ「脳はいかにして治癒をもたらすか」を読む-3

学習障害と言われ、本は読んでも全然理解できず、落第3回繰り返し、勉強なんて大嫌いだったポール少年。彼のケース後半です。

トレーニング序盤は聴くだけpassive。これは15日間(当時の決まりです)、アレンジされた音楽を集中せず聴く。音楽に注意を向けない方が効果が上がる(注意を向けることは、古い習慣を呼び起こす可能性がある)。

2つの聴覚チャンネル/高周波数帯域強調と低周波数帯域強調(人の声は高周波数帯域)を音楽の中で行ったり来たりして聴く。

高周波チャンネルに切り替わる度に、耳の筋肉と高周波リスニングの能力が行使され、低周波チャンネルに切り替わると耳の筋肉と対応する周波数に結びついたニューロンが休む。

2つのチャンネルの切り替えは、新奇性の感覚を聴覚経験に加える。

新奇性の感覚の経験は、脳の神経可塑性に働き掛け、注意をつかさどる脳のプロセッサーを覚醒させ、ニューロン間の結合の形成を容易にする。

ドーパミンの分泌を促し、そのできごとを記録するニューロン交互の結合を強める。

ポールはpassiveの15日間が終るとリスニング能力が向上し、努力しなくても会話について行けるようになった。脳が適正な情報を受け取り始めるとリスニングに流れが生じ、今までのように努力は必要なくなった。

passiveが終ったときトマティスはポールにイギリスに行くよう勧める。

今まで彼の能力を損なって来た故郷を離れ新たな能力を試す機会である、と。

当然彼は興奮と同時に当惑する、外国語学習は悉く失敗して来ていたので。

行ってみるとイギリス人と意思疎通が出来、楽しむことが出来た。「あらゆることが、英語の会話でさえ、驚く程簡単に感じられた。」

さらにトマティスの提案、10年生(高校一年生)の試験に落ちたポールにパリの寄宿学校に入り、2年で高校卒業証書を取り大学に入れ、そのためにセンターでactiveのトレーニングをと。

activeとは聴覚トレーニングの第2フェーズである。より良い自己表現能力を習得するために。電子耳(トマティスのトレーニング用機器)を通じて自分の声を聴く。

聴覚の処理能力が改善していれば、自分の本当の声を聴き、処理能力をさらに向上させられる。

舌や様々な筋肉を動かしながらことばを発する→声を出す際に生じる唇、喉、顔面、骨の振動を感じる→自己受容感覚-身体の各部位の正確な位置に対する気付きが起きる。

気付きを用いて脳マップが差異化を作り出す。

正しく背筋を伸ばして座らせ、正しく呼吸し、目で意識的に文章を追いながら音読し、電子耳を通してその声を聴き、あたらに形成された神経経路を強化するために1日30分音読(当時は右手拳に向って、今はフォーブレインで)が行われた。

ある日本屋で手にした本を開くと、文字から内容が入って来ることが解りビックリした。

自分には不可能と思っていた学業は「単に難しいもの」ととらえられるようになった。

高校卒業試験に一度で合格、自分のような人を助けるために心理師になりたいと決意、トマティス博士の手伝いをしながらソルボンヌ大学で学位1972年。

世界中のセンター開設に携わり、最終的にトロントで開業。

 

大変な人生があったものだと読みながら改めて思いました。
そして聴く事読む事話す事(当然書く事も入るでしょう)が、聴覚から阻害されている可能性がある事、そしてそれはトレーニング可能である事をポール少年は自身の経験からハッキリと学び、同じように苦しむ人たちを助け続けて行きました。